山の会(OBの会)

内田会長挨拶

世の中に宝はいろいろあるが、友をその最右翼に置いたとしても異論は少なかろう。山の仲間と歓談すればしばしこの世の憂さを忘れる。東大スキー山岳部OB会である「東大山の会」の気の置けない友と一緒であれば時の流れるのを忘れる。苦楽を共にしたからだ。夏、黒部五郎カールのお花畑で涼風に吹かれていたとき、秋、錦秋の涸沢で会心の山登りをしていたとき、あるいは立山稜線に張った風雪のテントの中で侃々諤々の議論をしていたとき、いつでも仲間が側にいて、誰もが本音で語った。そのとき友情が生まれ、人はなんと多様な価値観を持っているかということを知った。心の友を持ち、多様な価値観を認める寛容さを持つことがいかに大切か、そのことを社会に出てから実感した。

人知がどれほど発達しようとも、人は自然から生きる術を教わる。ルネッサンス以来のおごり高ぶった人間が、もっと謙虚に自然から学ぶべきだと気付いたのが現代であろう。自然は厳しく、山も厳しい。その厳しい山に行くには、体力がなければならない。山の自然現象を理解する知力がなければならない。体力知力に加えて、五感を研ぎ澄まし感性を磨かなければ、山の厳しさに対処できず、安全な登山はできない。それらの多くは若い時にしか得られず、多感な時代にしか磨くことができない。

登山のスタイルも時代と共に変化する。昨今の東大スキー山岳部は従来のアルパインスタイルだけでなく、様々な形で山とかかわっている。登山のスタイルは確かに変化しているが、山と友についてわたしたちが抱いた感懐は、いまの時代でも通じるのではなかろうか。そういう期待から、わたしたちスキー山岳部OBは、自分たちが享受した貴重な体験を若い世代と共有したいと願っている。現役諸君が、充実し楽しく安全な登山を展開することを願って止まない。その願いを実現するために出来ることがあれば、努力を惜しまないつもりだ。

東京大学山の会会長 内田 博
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